住むを考える
溝田知子さん
住まいと暮らしの総合企業LIXILでキッチンの開発に携わる溝田知子さんに、最近のキッチンのトレンドと最新の便利機能についてお聞きしました。
最近のキッチンのトレンドとは?
最近の傾向として、キッチンのレイアウトで多く採用されているのが、ダイニングやリビングと一体化したオープンなスタイルです。キッチンは壁付けではなく、ダイニングやリビングに向かって
料理などができる対面式が人気ですね。キッチンを単なる作業空間ではなく、居心地のいいくつろぎ空間の延長として使いたいと考える方が多いようです。子育て世代にとっては、台所仕事をしながら子どもの様子を見守れるという点も大きな魅力でしょう。すでに子どもが独立したシニア世代にとっても、リビングなどに設置したテレビや窓からの景色を見ながら作業できる、というメリットがあります。使いやすさに大きく影響するワークトップの適正な高さは、一般的に「使う人の身長÷2+5cm」といわれていますが、最近ではそれより少し高めに設定するケースが増えてきました。理由は、ご主人もキッチンに立つことが増えてきたから。共働き世帯が大多数を占める、今の世相を反映していると考えられます。
リビングやダイニングが一体化したことで、キッチンそのものが室内空間のインテリアと調和することが求められるようにもなってきています。当社のキッチン「リシェル PLAT〈プラット〉」は、落ち着いた上質な意匠が特徴で、暮らしの中心として書斎にもバーにもなる、家具のようなキッチンを目指しました。また、「リシェルSI」シリーズには、焼き物ならではの味わい深いセラミック製のワークトップをラインナップしています。美しさだけではなく、熱や傷に強い耐久性を保つことで、多くのお客さまからご好評いただいています。
使いやすいキッチンのポイントとは?
私たちが目指したのは、使いにくさを排除して料理が楽しくなるようなキッチン。使う人の視点に立ってキッチンを見つめ直すために、一般ユーザーのキッチンでの行動をつぶさに観察しました。その結果、「手間を省いて最小限の動作で済ませようとする」「作業の工程を短縮しようとする」という行動がよく見受けられることに気づいたのです。例えば、引き出しを全開にせず、ちょっとあけたすき間から必要なものを取り出す、あけた引き出しを手ではなく体で押して閉める、といったことですね。これを受けて決まった開発のキーワードが、「最少労力・最大効果」。使いやすいキッチンのポイントといえるでしょう。
そうした観察の結果を受けて、試行錯誤の末に開発したもののひとつに、「らくパッと収納」があります。最大の特徴は、引き出しのドアが20度傾くことでテコの原理が働き、軽い力で開けられること。ドアが傾いたときにドアポケットやインナーシェルフが見えるので、引き出しを大きくあけなくても必要なものがひと目で見渡せ、ワンアクションで取り出せます。リウマチで手先に力が入らない高齢の女性ユーザーから、「これなら開け閉めしやすいので助かります」という感想をいただいたときはうれしかったです。
最新の便利機能を教えてください
人に寄り添うようにやさしく機能する技術を、私たちは「ヒューマン・フィット・テクノロジー」と呼んでいます。そんな、使い手優先の考えで生み出したもののひとつが、高機能な自動水栓の「ハンズフリー水栓」。開発のきっかけは、一般ユーザーの行動を観察していて気づいた、ある行為でした。食器洗い乾燥機を使っている人の9割が、食器洗い乾燥機に入れる前に「予洗い」をしていたんです。その際、「いちいち水を止めるのが面倒だから」と水を出しっぱなしにする人と、「水がもったいないから」と水を出したり止めたりする人の両方がいました。どちらの人も満足できる「水が出てほしい時に出て、止まってほしい時に止まる」状態を実現するまでは、試行錯誤の連続でしたが、センサーの感知範囲や感知速度を少しずつ詰め、絶妙なタイミングと位置で水が自動的に出たり止まったりすることを実現できたんです。予洗いが楽になるだけでなく、水栓自体が汚れないこと、節水効果も高いことから、高い評価を得ています。
他にもユーザーの作業負荷を軽減する便利な機能のひとつに、面倒なレンジフードのファンのそうじが不要になる「よごれんフード」があります。高速回転するディスクがファンの手前に設置してあり、吸い込んだ油煙を空気と油に分離することで、内部への油分の浸入を防いでくれます。レンジフードの表面はフッ素コートが施してあるので、ふだんのお手入れは軽くふくだけでOKなんですよ。
また、汚れが気になる排水口をそうじする手間を減らせるのが、「くるりん排水口」。水道を使うたびにうず状の水流が材料の汚れを洗い落としてくれます。こういった「お手入れのしやすさ」も、使い勝手の良さにつながる重要な要素。これからも、面倒を省き、作業が楽しくなる機能へのニーズはますます高まっていくでしょう。