住むを考える
渥美幸久さん
最近多くなっている地震に対し、住まいの最新の取り組みとは?パートナー企業「千博産業」の渥美社長にお話を伺いました。
ご存じですか?「耐震」「制振」の違い
須賀●東日本大震災以降地震の発生も多くなり、4月には熊本地震もありました。建物に対する安全性に注目が集まっています。まずは、「耐震」と「制振」の違いからお話しを始めましょうか?
渥美社長●「耐震」「制振」という言葉は聞いたことがあるけれど、ピンとこないという方も多いのではないでしょうか。
須賀●そうですね。まず耐震ですが、これは建物をがっちりと固めて揺れないようにすることです。建築基準法で、震度6強~7程度までの地震で倒壊しないように木造住宅の性能を高めることを定めていますから、私たち住宅メーカーは耐震基準を満たすために壁を強くしたり筋交いを入れたりして、家を頑丈にしなければなりません。
渥美社長●耐震が揺れに耐えるという役割を持つのに対して、制振には揺れを吸収して衝撃を和らげる役割があります。人の身体に例えてみましょう。ガチガチに身体を固くしている状態と、関節が柔軟に動く状態では、同じ力で押したとき、固まっているほうが倒れやすいですよね。住宅も同じです。耐震基準を満たしていてもそれだけでは揺れの力( 衝撃力)をしっかりと軽減することはできません。制振で衝撃を吸収することも大切なんです。
須賀●衝撃を吸収するということは、長引く余震にもメリットがあるということですね。
渥美社長●もちろんです。耐震性がしっかりしていても、余震で揺れ続けることで建物は徐々に傷んで耐震性が悪くなります。耐震に制振を加えることで、傷みやひずみを軽減することができるのです。アルネットホームでは「TSハイブリッド構法」で耐震(T)+制振(S)を実現していますね。
須賀●「耐震」「制振」というと別物のようですが、耐震性があってこその制振です。耐震面では、ベタ基礎に土台として耐久性のあるヒノキを採用し、骨組みには強度が十分に保証された集成材(エンジニアリングウッド)を使って専用金物(タフジョイント)でしっかりと接合します。壁面は耐震パネルで囲って頑丈な「箱」を作ります。こうして耐震性能を十分に高めたうえで、制振ダンパーをつけて制振性能をプラスします。ダンパーを入れることで揺れを抑えられますから、より安全に安心に生活でき、傷みの少ない長持ちする住宅につながります。
渥美社長●一般的には揺れをコントロールする方法として免震もありますが、「TSハイブリッド構法」の住宅と免震住宅を比べるとどうでしょう。
須賀●免震は建物と基礎の接合部に装置を入れ、地震が起きると装置が左右に移動して衝撃を伝えない仕組みですが、コストがかかりますね。また建物が移動するので設備配管の対応、敷地面積、さらに地盤の固さなどの条件を満たす必要があるので、一般のお客様にはハードルが高いかもしれません。耐震+制振のほうが現実的ではないでしょうか。
高性能な制震ダンパーの秘密に迫る
須賀●アルネットホームでは、耐震性を十分高めたうえで、さらに制振ダンパー「evoltz」を採用しています。35坪程度の住宅で約12本、壁の中で梁と柱を固定するように取り付けます。図面を千博産業さんにお渡しし、どこに取り付ければ性能を最大限に発揮するか、何本必要かをプランニングしていただいています。「evoltz」をつけることで、安全に、心地よく、長く住み続けられる住まいを提案できますね。
渥美社長● ありがとうございます。「evoltz」は、当社が企画・開発
し、ドイツのビルシュタイン社に製造を委託した油圧式の制振装置です。その仕組みを技術的に説明するとちょっと難しいので、例えば自動車の乗り心地をイメージしてみてください。心地よい車は揺れをあまり感じませんね。これは、タイヤの奥にあるダンパー(ショックアブソーバー)が路面からの衝撃を吸収してくれるからです。もしダンパーが鉄の棒のようなものだったら、衝撃を直接受けて乗り心地は最悪のはず。実際、ビルシュタイン社は1960年代からレーシング用のダンパーで世界に名を馳せ、メルセデス、BMW、ポルシェなどの高級車にダンパーを供給している最高レベルのパーツメーカーです。車の快適な乗り心地を、安心の住み心地に転換したものが「evoltz」なのです。
須賀●制振体験装置に乗ってみるとわかるのですが、震度3~4の揺れならそれほど感じなくなります。ビルシュタイン社と提携された経緯を教えていただけますか?
渥美社長●当社は2008年から制振事業を事業の柱とし、「SSダンパー」を開発しています。住宅用としてさらに進化するには、耐久性と反応性能を高めていく必要があり、その鍵を握っていたのがビルシュタイン社でした。揺れを感じた瞬間に素早く反応して制御する技術(バイリニア特性)にビルシュタイン社は優れており、この性能を一般住宅の制振装置に応用したいと考えました。ビルシュタイン社に「人命と住宅を守るために、車の振動抑制技術を応用したい」と伝えたところ、私たちの思いに賛同してくれ、実現しました。小さな揺れから効果を発揮するのは、「evoltz」の性能の大きな特徴で、この特性で特許を取得しています。
須賀●確かに、素早い反応は制振装置の課題です。というのも、揺れへの反応ができなければそれだけ住宅が傷みますからね。さらに繰り返しの余震に強いということも、当社が「evoltz」を採用している理由のひとつです。
渥美社長●熊本地震では、本震後半月間で1000回以上の余震が起こり、現在までに2100回以上揺れています。大きな地震のあとには必ず余震が続きますから、何度でも衝撃を吸収してこその制振装置です。「evoltz」は、100万回の作動耐久試験でも性能がほぼ変わらず、またどんな周期の地震にも反応して共振を防ぐように設計されています。宇宙開発にも使われる部材を採用し、耐久性が高いことも利点にあげられますね。
住まいの地震対策の今後は?
須賀●「evoltz」の進化形としてイメージされているものはありますか?
渥美社長●実は、交通振動にも特性を発揮できるのではないかと考えています。実際にお客様から、「建て替えでevoltzをつけたら外を走る車による家の揺れが気にならなくなった」という声を聞いていました。そこで交通振動抑制効果についてもデータをとって解析しており、近々公表できそうです。
須賀●交通振動にもメリットがある制振装置はないので、実証されれば唯一という高性能な制振ダンパーの秘密に迫ることになりますね。「evoltz」をつけることで毎日の生活が快適になれば、さらに用途が広がりそうで楽しみです。
渥美社長●制振を身近に感じていただけるとうれしいです。制振装置というと難しいイメージを持たれるかもしれませんが、安心・安全のための対策と考えてください。例えばご夫婦ともに働いていて、会社にいるときに地震が起きたとします。学校から帰宅した子どもが家に一人でいたら心配でしょうが、「耐震+制振」なら家にいるほうが安全です。地震で心配する家ではなく、「地震が起きても安心、安全な家」のために、これからも効果のある制振装置とはどんなものかをもっと追求していきたいですね。
須賀●それは頼もしいですね。当社も安心、安全への思いは同じです。日本は地震大国ですから、もしかしたら建築基準法で定められた耐震基準を満たす以上の対策が必要ではないかと、以前から感じていました。より安心、安全に暮らすには耐震+制振が必要ではないかと考えたのが、「TSハイブリッド構法」を開発したきっかけです。
渥美社長●御社との取り組みは約3年になります。まだ「制振」に力を入れる住宅メーカーが少なかったころからのお付き合いですね。私は、住宅の標準装備には住宅メーカーのお客様への思いが表れると考えています。つまり、3年前に「evoltz」を採用していただき、いち早く耐震+制振を標準装備にしたのは、お客さまの安心、安全を願ってこその対応に他ならない。安心、安全を住まいにとって優先順位の高いものとして位置づけた姿勢に、当社も感銘を受けました。
須賀●ありがとうございます。地震予知は難しいという声も聞きますが、だからこそ事前に手を打っておくことも必要です。耐震、制振以外では、ガラスの飛散防止のために防犯ガラスにする、スペースに余裕があれば備蓄のための納戸をつくる、太陽光発電システムなら非常時に使える自立運転用コンセントをつけておくといった対策が考えられます。もちろん、当社もお客様にあった地震対策のご提案をしていきたいと思っています。特に「evoltz」は条件を満たせば、リフォームで後付けすることもできますので、すでに住まいを建てられた方にもおすすめします。
渥美社長●「地震が起きても安心・安全な家」のために、これからも大賀建設さんといっしょに取り組んでいきたいですね。
須賀●こちらこそ、よろしくお願いします