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野出さんの代表作のひとつ、「忍者」。組み体操のような積み木遊びやバランスアート、ドミノ倒しなどさまざまな遊び方ができる。もともとは10cm角の板でキーホルダーを作ろうとしていて、ふと人型に切り抜くことをひらめいたことから生まれた作品

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野出 正和さん

1966年東京生まれ。1994年、長男の誕生
を機におもちゃ作家に転身。複数の作品が、
厳しい審査で知られるドイツの認証「シュピー
ル・グート」を取得するなど、高い評価を得て
いる。工作教室の開催やおもちゃコンサルタ
ント養成講座講師などマルチに活躍中。

商品の詳細はこちらからご覧いただけます。
https://www.rakuten.ne.jp/gold/mainichigenki/

住むを考える​ 

野出正和さん

アルネットホームは、子育てを家づくりの側面から考えています。
木のおもちゃを作り、日頃から子どもに接しているTOYクリエイターの野出正和さんに、おもちゃを通して「遊びをつくり出す時間」の豊かさを教えてもらいました。

木はおもちゃにぴったりの素材

アルネットホームさんも木をたくさん使うと思いますが、僕もおもちゃの材料に木を使うことが多いです。もちろん必要に応じて金属やプラスチックも使うし、特別に木にこだわっているわけではありませんが、やっぱりいちばんベーシックな素材という感覚がありますね。火おこしや家づくりなど、人間って大昔から木とともに生活してきたでしょう。「木は友だち」という思いがDNAに埋め込まれているんじゃないかな。木のことを悪く言う人は、まずいないですよね。触るとぬくもりがあって心が落ち着く。子どもが扱うおもちゃの素材にぴったりだと、理屈抜きに感じます。
 種類が多く、それぞれに個性があるのも木の魅力です。一般的に、広葉樹は重くて硬く、針葉樹は軽くてやわらかい。耐久性が必要なおもちゃには、広葉樹のビーチ(ブナ)やメープル(カエデ)を使うことが多いですね。木によって色が違うし、同じ種類の木でも木目は全部違うでしょう。そんなところもおもしろいと思います。

 

自由な発想で楽しく遊んでほしい

プラスチックや金属で作ったおもちゃに比べると、素材の特性としてあまり複雑なものは作りにくいので、単純な形になりやすい点も木の利点です。僕が考える「いいおもちゃ」の条件は、おもちゃに遊ばれず、遊びを作り出せること。「やりたい」という気持ちを起こさせること。シンプルだからこそ、子どもが自分で遊びを考え出すことができるんです。ある調査によると、今の子どもは平均400~500個ものおもちゃを持っているそうです。ファストフード店のおまけなども含めた数字でしょうが、いかにも多いですよね。本当はそんなにたくさんのおもちゃは必要ないのかもしれません。


 膨大なおもちゃの中には、テレビゲームも含まれていることでしょう。僕はテレビゲームが大嫌い。まだ子どもが小さかった頃、もし「買ってほしい」とねだられたって、絶対に買わないぞと決めていました。クラスでうちの子だけが持っていなくて仲間はずれにされるなら、引っ越せばいい( 笑)。だって、決まりきったルールに合わせて受け身で遊ぶなんて、つまらないじゃないですか。それより、遊び方が限定されずに広がっていく方がはるかに豊かだと思います。幼い子どもは、石ころやラップの芯でも遊びますよね。そういう自由な発想力って、シンプルなおもちゃの方が出てきやすいと思います。だから僕は、必然的に木のおもちゃを作ることが多いんじゃないかな。

 

 例えば、木の板を糸ノコで人型に切り抜いた「忍者」という作品は、何体かを並べてからずらして「分身の術!」とか、ひとつを自分の手に持って人形の手足を引っ掛けて持ち上げるとか、何通りにも遊べます。積み木として使うだけでも、積み上げ方のパターンはさまざま。特定のルールがないから、自由に遊べるんですね。もともと、「忍者」の試作品を保育園の子どもたちに試してもらったら、つなげたりドミノ倒しをしたりと自由に遊び始めて大人気に。
その発想の豊かさに感動したことから商品化に踏み切った、という経緯があります。


 作品づくりでもうひとつ心がけているのが、幅広い年齢の子どもに遊んでもらえるようにすること。例えば「ならべっこ」という作品は、四角い枠の中に4色の玉が4つずつ入って自由に動かせるようになっています。赤ちゃんにはガラガラになるし、少し成長して指でつまめるようになれば、玉を動かして遊べる。もう少し大きくなったら、「同じ色を一列に揃える」など自分でルールを決めて遊ぶことができる。成長に合わせて遊びが変わっていく様子を見ると、うれしくなりますね。

 

 

「こころのポケット」から作品アイデアが降りてくる

今の僕のおもちゃづくりは、アイデアを試作品でいったん形にしたら、生産は工場にお願いするスタイル。仕事の中に占める木工作業の割合は低く、主に発想力で勝負しているわけです。「作品のアイデアが出なくて苦しむことはないんですか」と聞かれることもありますが、全然困っていません。発想のコツは、日頃から子どものような好奇心を持つこと。子どもっていろんなところに目が行って、大人が気づかない妙なものを見つけたりするでしょう。それと同じように、好奇心を持って人とは違う視点でものごとを受けとめるのが大事なんです。そうやって心が動いた経験をためておく場所を、僕は「こころのポケット」と呼んでいるんですが、そこから必要なときや思いがけないときにアイデアが降りてくる。だから僕はルーチンワーク( 決まりきった日常業務)が大嫌い。自宅と工房の行き来も毎回なるべく違うルートにしているくらいです( 笑)。

 

刺激があった方がうれしいから、ふだんと違う場所で知らない人に出会える工作教室の地方出張は大好きですね。初めて訪れた土地の食堂や居酒屋に入るのにも抵抗はありません。そこで仲良くなっ
た人との不思議な縁で、仕事の幅が広がったこともありますよ。

のびのびと工作を楽しんで自信をつけてほしい

僕の子どもたちはみんな大きくなったけど、もし今、理想の子ども部屋を作ってあげるとしたら、室内に3つのコーナーを設けます。机や作業台がある「作るためのスペース」、いろいろな素材を使いやすく並べた「素材のスペース」、おもちゃや絵本などを飾っておくオープン棚の「宝物スペース」。こうしておけば、作りやすいし片づけやすい。
自分の作品やお気に入りのものをショールームのように見渡せるから、「あれとこれを組み合わせてこんな遊びをしよう」と発想も
ふくらみます。のびのびと、自分で遊びを作り出せる環境になるでしょう。せっかく子どもが好奇心を持って作り始めたそばから、
「片づけなさい」なんて言う親御さんもいるけど、それじゃあつまらない。創造性や自己肯定感を育てたいなら、環境を整えてあげることが大事だと思います。


 工作教室で子どもたちに教えるとき、僕は材料だけ用意して基本的に口出しはしません。でも、「ボンドがはみ出しちゃう」とか「線が曲がってる」とか、あれこれ言いたがる親御さんは多いですよ。セロハンテープを長く出したら怒るとかね。でも、そんな風に言われたら子どもはどんどんやる気をなくし、工作が嫌いになってしまう。だから、いつも親御さんには口を出さないでほしいとお願いしています。だって、セロハンテープなんて、ひと巻使い切ったって安いものでしょう。何ならセロハンテープを丸めてボールを作ったっていいんです。それよりも楽しく工作することの方が、よほど大事。工作で自信をなくして委縮したら、ほかのことにも影響します。逆に、工作で自信をつけて自己肯定感が強くなれば、つらいことがあっても頑張れますよ。工作教室が終わると、僕は子どもたちに「工作の達人認定証」をあげるんです。そのときの誇らしげな顔は最高ですね。

 

 

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